2019年春に、東京と大阪でブラジルのクラブチーム「クルゼイロ」のサッカーキャンプが開催され、参加した子ども達の中からMVPの選手と優秀選手と合わせて8名がブラジル遠征に参加した。「TOCA1…クルゼイロ育成施設」では、現地の選手と合同練習を行い、トレーニングマッチで同世代のブラジルの子どもたちとの対戦。プロのトレーニング施設を表敬訪問し選手や監督と交流。ミネイロンでの試合観戦。さらに今回、クラブ100年の歴史でも初めて実施されたイベントにもに参加する貴重な機会に恵まれました。
ブラジル遠征に参加したのは、『クルゼイロサッカーキャンプ』に参加し、ブラジル遠征を認められた選手7名です。東北から関東、関西、中国地方と様々な地方から集まり、ブラジル・ミナスジェライス州に乗り込みました。
日本を発ち、ブラジルまで30数時間。さらにクルゼイロの本拠地であるミナスジェライス州まで飛行機で乗り換えました。長旅の疲れも見せず、ブラジルでの時間を体いっぱいで味わいました。「未来はここから始まる!」とポルトガル語と英語で書かれた看板がTOCA1内に設置されています。ここから多くのプロ選手が旅立ちました。現CEOのホナウド(日韓ワールドカップ得点王のあのロナウド)や、横浜Fマリノスで活躍を続けるエウベル、徳島ヴォルティスのCBカカーなど多くの選手が、この場所から世界に旅立っているのです。FCバルセロナに入るであろうヴィトール・ホッキは、何と私たちの目の前でトレーニングしていましたよ。この看板の前で記念撮影。「俺たちの未来もここから始まる!」と改めて決意を新たにしたことでしょう。
今回訪問したクルゼイロの育成施設「toca1」。育成のプロが私たちを待ち構えてくれていました。身体測定に体力・筋力テスト。これからのトレーニングの内容や強度を見極めるために実施しました。その数値をもとに、滞在期間に合わせたオリジナルのトレーニングのプログラムを組みます。我々のためだけにアレンジしてくれたメニュー。ブラジルなどラテンの国は明るくノリで決めている?それは大きな間違いであることを、改めて思い知らされました。
トレーニングは1日2部練習を組んでもらいました。これは我々のリクエストに応えてもらっています。日本人だけの技術に特化した内容と、ブラジル人選手を招待しての合同トレーニングです。ミナスジェライス州にある100以上クルゼイロのサッカースクールから、同年代のブラジル人選手が参加してくれるのです、実際にブラジルでプレーしている子ども達と練習を行うことが出来ました。ブラジル人選手は明るく陽気です。楽しく我々ともコミュニケーションを取ってくれます。ですがトレーニング始まった瞬間に目の色が変わります。サッカーに対しては本当に真剣なのですね。
隣のピッチでは、クルゼイロのU15、U17のトレーニングも行われていました。クルゼイロからは、世代別のブラジル代表をいつも何人も送り出しています。その中には今、FCバルセロナに入団が噂されているヴィトールホッキの姿もありました。現在トップチームでプレーしているステーニオやカイキの姿も。その彼らと一緒の時間を過ごせた経験は、日本のサッカー少年にとっては計り知れないほど大きな経験だったのではないでしょうか。
クルゼイロの選手のプレーは、シンプルでした。技術そのものは恐ろしく高いのですが、派手な技術は使いません。試合で必要なプレーを続けます。そして絶対に目の前の選手に負けない戦いも見せてくれます。一つのボールに対して執着心を持ち、勝負にこだわります。この熱にあふれ、真剣にプレーする姿を、我々も標準にしたいものです。
トレーニングだけでなく、対外試合も2試合しました。前半よりも後半、1試合目よりも2試合目と、どんどん選手のプレーはよくなりました。短い滞在時間ですが、見違えるように成長していきました。特に自分のプレーを出せるようになってきたことが、本当に大きな成長だと感じました。
ブラジルの育成年代では、ほぼ全員がフットサルを真剣にトレーニングしています。近年都市化やクルマ社会化が進み、ストリートでサッカーをすることがブラジルでも難しくなっています。その代わりにフットサルに取り組むことが増えているのです。
なぜ?フットサルに取り組むのでしょうか?ボール扱いが巧みになるから。それはブラジルのフットサルの一端にしか過ぎません。我々の想像をはるかに超えたハイレベルの内容に取り組んでいたのです。将来、サッカー選手としてのベースを作るためにフットサルがあるのです。
クルゼイロU11世代と合同で、フットサルのトレーニングをしました。普段、彼らが取り組んでいるものと同じメニュー。これが難しい。高いテクニックと、判断力、認知力、そして即興性が常に求められるです。正直、日本の子どもたちは混乱していました。ルールは分かっても、付いていけない。何をすればいいのか分からなくなってしまうのです。メニューのレベルとしては、日本だとU15,U18が対象になるくらいの複雑なもの。もしかすると大人でも思考が追い付かない瞬間があるのでは?と思わせるほどの高難度でした。ブラジルのフットサル、恐るべしです。
最後に試合をしました。トレーニングで取り組んだこと、今まで自分たちが培ったものの全てを出しました。でも前半は一方的にやられてしまいます。「失敗を恐れずに戦おう!」「仲間のために走ろう!」コーチの声掛けもあり、後半は少しずつ盛り返し、何点か奪うこともできました。その姿に、クルゼイロのコーチも驚いているようでしたよ!
最後には、クルゼイロのマスコットであるハッポーサくんと、ハッポジーニョくんが遊びにきてくれるというサプライズを、クラブが用意してくれていました。さっきまで戦っていたU11の選手と共に、記念撮影。日本とブラジルとの距離を越えた絆が生まれましたね。
クルゼイロEC。クラブ100年の歴史で初めてのイベントが行われました。それはファヴェーラと呼ばれる貧民街への訪問です。ブラジルは日本とは比べ物にならないくらい貧富の差が激しいと言われます。その中でも特に治安も悪く、一般のブラジル人も立ち寄らない場所。それがファヴェーラなのです。
クラブ側から急きょ提案がありました。交流のあるファヴェーラのクラブに、我々と共に訪問したいと。「安全は必ずクラブが保証する。」「子どもよりたくさんの大人が同行し、グラウンドの中までバスで入っていく。グラウンドには関係者以外立ち寄らせない」という条件のもと、今回の訪問が実現しました。
ファヴェーラのクラブとの試合。対戦相手のレベルは正直高くありませんでした。組織されておらず、一人ひとりバラバラです。ただし、ボールへの執着心はとても高い。ルーズボールも止まらずに、浮き球も体ごと突っ込んできて、自分のボールにしようとするのです。彼らにとって、サッカーをしてプロ選手になれるかどうかは、人生がかかっている。家族みんなの期待を、幼いながらも感じて、必死にプレーしていました。その姿に、日本の子どもたちも驚きながら、試合を続けていました。試合はこちらが勝利しましたが、サッカーへの意欲、ボールへの執着心、ゴールに向かう魂は、圧倒的に敗北した気がします。
このような体験は、なかなかできるものではありません。そのような機会を我々に与えてくれたクラブに改めて感謝申し上げます。そして、この様子はクルゼイロ公式インスタグラムでも紹介されました。
この時の様子が、フットボリスタさんの記事に上がっていますので、そちらもお読みください。
ブラジル人プレーヤーの良さは何だろう!?クルゼイロ育成の悩みの一つだそうです。
トレーニングが高度化され、サッカーが戦術的になりすぎている。その環境で選手は育つが、ブラジル人選手の特徴や良さを持った選手が出てこないのでは?との課題を、クラブは感じています。少しでも昔のブラジル人選手が持っていた柔らかい発想や、ジンガ、相手との駆け引きを身につけてほしいそうです。
その一つの解決策として、ストリートサッカーへの取り組みがあります。本当に車道に出て(車通りの少ない道)、裸足でプレーするのです。ビブスなどはないので、裸と、服を着ているチームとに分かれます。車が通ると、試合は中断。ボールが家に入ってしまうとベルを押して捕ってもらう。形だけでない、本当のストリートサッカーでした。最初は道路で裸足になること、裸足でボールを蹴ることに抵抗がある子どもたち。こわごわとプレーをしていました。
子どもの順応力はすごいですね。みるみる楽しみ、どんどんサッカーを楽しんで、面白いプレーを見せてくれました。最後は真っ黒になった足裏を見せて、記念撮影。ブラジル人の気持ちに触れた時間でした。
クルゼイロの育成施設「toca1」では、朝昼晩と食事が提供されます。ビュッフェ形式で各自が食べたいものを食べたいだけ取るスタイル。
朝は、欧米によくあるパンと飲み物、これにフルーツとハムが付いた軽いもの。
昼と夜は、お米、フェジョン(豆の煮込み、伝統的なブラジル料理)チキンや豚のローストや煮込み、サラダにフルーツ。アスリートに必要な全ての栄養素を(動物性・植物性たんぱく質、炭水化物、ビタミン、ミネラル等々)充分に摂取できる素晴らしい内容です。揚げ物はほとんど出てきません。アスリートが体を作るために特化した、最高の食事が毎回提供されるのです。
クルゼイロの選手たちは、本当によく食べます。そのせいか、がっしりとした体つきの選手ばかり。一方我ら日本子どもたちは、初めて見る?ブラジル料理に苦戦。お皿に少ししか盛りません。足りない分はこっそりお菓子で・・。
これでは体力が落ちてしまいます。子どもたちに「食べることもトレーニングだ」「いつもの家の食事とは違うけど、食べてみよう」と毎回、子供たちの食事の量をチェック。「それでは足りないよ、おかわりしよう」「緑のものが少ないね、フルーツか野菜を追加しよう」。毎回の食事がトレーニングですね。最初は少量しか食べれなかった子どもたちも、少しずつブラジル料理になれてきたのでしょうか、最後には笑顔で食事を摂れるようになりました。これもブラジルまで行ったからこそ体験できることだと思います。
クルゼイロは、遠く日本から来た子供たちにグラウンド外でもブラジルを体験してほしいという思いから、ショッピングモールへの買い物、ホームスタジアムであるミネイロンへのツアー、クラブスタッフの自宅でのホームパーティー、トップチームの練習見学に、プロ選手との交流など、イベントが目白押しです。これらは常にクラブのスタッフが同行してくれます。移動はすべてクラブのバス。子どもたちが危険な思いをさせない!という強い意志をいつも感じます。
さらに、子供たちにブラジルの試合の激しさ、熱さを感じてもらうため「ブラジルの試合を生で観戦させてあげたい」という思いから、プロの試合の観戦に行きました。コパドブラジルの観戦にも出かけました。クルゼイロの応援です。
サポーターの声や爆竹などは日本と違い、安全は自分で守らなければならない。これも子ども達にとって、良い経験になったのかもしれません。日本では味わうことの出来ない、刺激的な時間になりました。
ブラジル・クルゼイロへの遠征では、日本では経験しえない貴重な時間を過ごしました。我々を信じて送り出してくれた親御さん、本当にありがとうございます。そして温かく迎えてくれたクルゼイロのスタッフの支えがあって成り立ったブラジル遠征。参加した子どもたちは、最後まで頑張りました。毎晩ヒロコーチと個人面談を繰り返し、日々のトレーニングや行動を振り返ります。全員で少しでも良い時間にしようと、取り組みました。失敗と成功を繰り返しながら、ブラジルで過ごした時間は一生の宝物ですね。